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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)7号 判決 1980年9月30日

控訴人(被告) 大江政雄

被控訴人(原告) 森山貞雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠の提出、援用、認否は、次の通り附加するほかは原判決事実摘示の通りであるからこれを引用する。

(控訴人)

1  浜益村は、札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第一三四九号損害賠償請求訴訟(本件別訴)の結果いかんにより国家賠償法一条又は民法七一五条による損害賠償責任を負担しなければならなくなるおそれがあつたから、本件別訴において、村の行政行為の適法性、正当性を主張・立証し、村には不法行為責任が全く無いことを明らかにする必要があつた。従つて、浜益村は本件別訴につき独自の法律上の利害関係を有していた。

また、本件別訴は、私人として本件控訴人の行為に対するものではなく、村の機関である村長の行政行為につき、村長個人を被告として提起されたものであり、争いの実質は機関としての行政行為の適否であるから、村長個人の応訴及び訴訟追行は、実質上村長としての公務ないしこれに準ずる行為というべきであるから、村として右につき必要な費用を支出することはその義務であり、これにつき違法の点はない。

2  そこで、浜益村は、昭和五二年七月一五日、弁護士坂下誠に対し、本件別訴につき、村の利益の擁護を計るため、村としての必要な措置をとるよう委任し、右委任契約に基づき、浜益村から右弁護士に金三〇万円が支出された。

右弁護士は、本件別訴提起前に本件被控訴人が代表取締役をしている訴外浜益自動車運送株式会社(訴外会社)から浜益村に対し札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第二八号請負代金請求訴訟が既に提起され同弁護士が同村から訴訟委任を受けており、かつ本件別訴の被告である本件控訴人の訴訟代理人にもなつていたので、同弁護士は右両事件の弁論併合を申立ててその旨の決定を得、そこで本件別訴の原告である訴外会社の主張を争い浜益村の入札行為の適法性、正当性を主張し立証したので、右訴訟活動によつて、弁護士坂下誠が浜益村から依頼された本件別訴に関する委任契約の目的は、実質的に達成されている。

3  以上の通りであるから浜益村の金三〇万円の支出は適法にして相当であり、何ら非難されるべきものではない。

(被控訴人)

1 控訴人の右1の主張は争う。

2 同2の主張中、浜益村が弁護士坂下誠に訴訟委任をし、金三〇万円の支出をしたことは認め、右委任契約の目的が達成されたとの主張は争う。

3 同3の主張は争う。

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するものであるが、その理由は原判決の理由記載と同一であるからこれを引用するほか次のとおり付加説示する。

原本の存在及びその成立につき争いのない乙第九、第一〇号証、成立に争いのない乙第一一号証によれば、被控訴人が代表取締役をしている訴外会社は、本件別訴において、浜益村の村長である本件控訴人は、北石狩衛生施設組合から同村に委ねられた、同村における昭和五二年度の廃棄物収集運搬請負契約の締結に当り、指名競争入札の方法をとり、その際訴外会社をその入札参加者の指名から除外したのであるが、これは本件控訴人が村長の地位を利用し、訴外会社代表者である本件被控訴人に対する私的感情に基づいてしたものであるから、民法七〇九条の不法行為に当るとして、本件控訴人個人に対し損害賠償の請求をしているものであることが認められる。

そうすると、訴外会社が本件別訴で主張している本件控訴人の右行為は、同人が浜益村村長としての地位に基づいてしたものであることが、右訴外会社の主張自体から明らかであるところ、公権力の行使に当る地方公共団体の公務員の職務行為に基づく損害については、当該公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行に当つた公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではないと解されるから(最判昭和三〇年四月一九日民集九巻五号五三四頁、同昭和五三年一〇月二〇日民集三二巻七号一三六七頁)、訴外会社の本件別訴は主張自体失当というほかはない。

してみれば、本件別訴の結果いかんによつて、浜益村が損害賠償責任を負担することになるおそれがあり、従つて、本件別訴において、浜益村が同村長である本件控訴人の行政行為の適法性、正当性を主張立証し同村に不法行為責任のないことを明らかにする必要があつたとは到底いい難いから、本件別訴につき、浜益村はなんらの法律上の利害関係を有するものではなく、従つて村が本件別訴に応訴する必要も、またその応訴費用を支出する必要もなく、まして控訴人のためにその訴訟費用を負担する義務は全くないというべきである。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 安達昌彦 澁川満 喜如嘉貢)

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